「グルーヴ」って何?

プロのミュージシャンとして仕事をしながら大学院に通っていた頃、授業で「ティーチング・アーティスト」という言葉に出会った。何のことだろう、と思ってよくよく話を聞いてみたら、なんてことはない。要するに、これまで自分がやってきたことなのであった。

僕は30歳になるまでの間、「音楽」という名のつく仕事は、種類やギャラの多寡に関わらず何でもやってみようと思い、実際にそうしてみた。多くの人は「音楽でメシ食ってくぜ」というと無謀なことのように思うかもしれないし、実際に僕が国際関係の道から音楽の道へと進路変更した際も、身内から友人から、ことごとく「お前、大丈夫か?」「もったいない」「無理だ」という言葉が直接的、間接的に聞こえてきた。でも、「音楽でメシ」といっても、いろんな方法があって、それこそ超有名アーティストとして食っていくことから、カラオケの音源をコツコツ作る職人、街のピアノの先生や学校の音楽の先生など、様々な職種があるということを、大半の人々は知らないようだ。これから「音楽の道」を目指す若者に声を大にして言いたいのだが、「メシの種」なんてものはそこいらに沢山あるのだ。ちょっとの才能と、死ぬほど努力するガッツさえあれば、少なくとも音楽の世界の片隅ぐらいではメシ食っていけるぐらいのことは出来るはずである。

僕が30歳になったとき、ソロの歌い手、グループの歌い手、ピアノ伴奏、弾き語り、指揮者、作曲家、編曲家、作詞家、プロデューサー、指導者、ミュージックディレクター、ヴォーカル講師、ピアノ講師などなど、ありとあらゆる「音楽の仕事」をして来てたどり着いたのは、「自分は第一義的には曲の書き手かつプロデューサーであり、自分のユニットをメインとして自分の楽曲を世に知らしめ、あくまで第一義的な部分をコアにしながら、教育を通して世の中に還元していこう」というスタンスであった。

これからの仕事の割合は、年を経ていろいろ変わり、またこれからも変化していくと思うが、基本的に自分は「ティーチング・アーティスト」、つまり、アーティストであり続けながら、アーティストとして培った自分の経験や知識を「教育」という場を通して世界の人々に伝えていく、というスタンスで生きていくのが心地良いのだと(少なくとも今の時点では)思っている。

で、表題についてである。「グルーヴ」って何ですか、というお話。

ここ数年、居住地であるアメリカだけに留まらず、カナダ、日本、シンガポール、香港、スウェーデン、中国本土と、いろいろな国や地域で音楽を教える機会をいただいている。僕の一番の専門はジャズコーラスとそのバックバンドの作編曲・プロデュースなのだが、日本語でいうところの「ノリ」である「グルーヴ(Groove)」についてのお話は、僕の持っているネタの中でもバークリーでの授業を筆頭に、世界各地で「そのトピックでお願いします」と依頼されることが非常に多い。

日本で生まれ育った僕は、アメリカに渡った当初、自分の持っているグルーヴ感とアメリカ人やラテン人、アフリカ人の持っているグルーヴ感の歴然とした違いに、とてつもないショックを受けた。ジャズのヴォーカルグループを組み、優秀なリズムセクションやビッグバンドとグルーヴ感のありまくるライブをこなす中、自分がそれに乗り遅れまいと必死に食らいつき、どうやったら自分もこいつらと同等以上にグルーヴを出していけるのか、ということを必死に模索してきた。

ステージは闘いである。もっと言えば、リハの時点から闘いである。一度闘いの舞台に立ってしまえば、「僕は日本で生まれ育ちました。だからグルーヴ感はあまりないんです。いや、関西に住んでたのでぼちぼちノリはいいほうなんです。はい。」なんて言ってみても、誰も同情してはくれない。しかし、生まれついて持っていなかったからこそ得られたアドバンテージは、それを人に「教えられる」ということである。天才ではないからこそ、「僕はこうやって出来るようになりました」という話が具体的に出来るのだと思うと、生まれ持っていなかったというディスアドバンテージも「まあ、いっか」と思う(しかない)。

2018年1月。日本では関西と東京で、どちらもアカペラ団体の主催で「グルーヴ」についてのワークショップを行うことになった。コーラスを歌っている人は、「ハモること」の心地よさには惜しみなく時間をかける傾向にあるものの、皆でノリを揃えることは、あまり時間をかけない傾向にある。あるいは、「どうしたらいいのか分からない」というのが、実際は多くの人たちの本音なのかもしれない。今回のワークショップの目的は、そんな「(ノリを出したり揃えたりするには)どうしたらいいのか分からない」という人たちに、「こんなふうに練習していくといいですよ」というヒントを提供する、というところにある。

自分が闘いの中から編み出した方法論と、バークリーでの授業(受けた側として、そして教える側として)での方法論を、短い時間ではあるがたくさんの方々と共有するのを、いまから楽しみにしている。

 

2017年 年の瀬に

リー・アベ

 

ワークショップ日程:

6 (SAT) 1-4pm (Tsunenori “Lee” ABE)
グルーブ・ワークショップ
大阪市立青少年センター(Osaka, Japan)

7 (SUN) 1:30-5:30pm (Tsunenori “Lee” ABE)
アカペラ「てんこ盛り」ワークショップ
ベースオントップ高田馬場店 2F 16st(Tokyo, Japan)

 

追伸:下にワークショップの資料を(参加の有無に関わらず)無料公開いたします。参加される方は自分のパートを選んで事前に歌えるように準備しておくとより有意義に受講できるので、ダウンロードして練習してみてくださいね!


ワークショップ資料

Jingle Bells – SATB (Workshop) – Variations – Score

Jingle Bells – SATB (Workshop) – Score

練習用MIDI 音源

Jingle Bells (lyrics).01 (当日は日本語・英語、両方で歌い比べてみる予定です。)

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