編曲のススメ (05.01.2005)


ライブハウス多作での編曲ワークショップ
photo taken by Ikki Yamaguchi

 

いつかは書こう、と思いつつ、その「いつか」が限りなく先延ばしになってしまうことはよくある。今回のコラムは、そんな「先延ばし」事項になっていたことのひとつだ。

そう、編曲。「あなたの職業は何ですか?」と聞かれたら、当たり前だけど「ミュージシャンです」と答える、そうするとたいてい、「ほう、何を演奏されるんですか?」と聞かれる。僕はそこで、「歌い手なんです。ピアノも少々。」なんて答えることもあれば、「曲書きです。」と答えることもある。僕の仕事内容は多岐に渡っていて、演奏者でもあれば曲書きでもあり、プロデューサーでもあれば教育者でもある。それらすべてがミュージシャンとしての仕事なのだが、その中で一番意識が強いのはどこか、というと、実は「曲書き」の部分だったりする。

では、曲書きってのは何なんでしょう?僕の場合、曲書きというと、作曲、編曲のふたつ(うたの場合は作詞なども絡んでくる)のことを指して「曲書き」と言う場合が多い。一般に作曲というのは分かりやすい言葉で、「ゼロから曲をつくる」ことを指している。畑も種も水もないところに花を咲かせるようなもの、といっては過言だろうか。

それに対して編曲というのは、既にある曲を加工して、より興味深いサウンドにしたり、それを演奏する人のスタイルに形を変えたりすることである。既にある花をアレンジする生け花のようなもの、ともいえよう。

作曲、編曲、そのどちらにも多大な創造力が必要なことは言うまでもない。でもふたつを比べると、どうしても後者は軽んじられる傾向にある。それを顕著に表しているのが著作権のシステムで、作曲者に対しては曲の権利が発生して曲が演奏されたり放送されたりするごとに使用料が払われるものの、編曲者に対しては、その人が書いた編曲がいかに演奏されたり放送されたりしてもビタ一文入って来ない。たいていの場合、編曲は「買い取り」であり、依頼を受けたときに「はい、じゃあ○万円でこれを編曲してください」みたいな形で打診され、それ以上は決してお金が入って来ない仕組みになっている。

顕著な例をひとつ書くと、仮に「ウェスタンオールスターズ」というバンドがあったとしよう(以下WAと略)。WAのボーカル、たけし(仮名)は、音楽に対する知識はあまりないけれど、なんとなくひらめくことがあって、何曲か曲を書いてみた。一方でWAでキーボードを担当しているユメジ(仮名)は某音大の作曲家を卒業。音楽の知識が豊かで、たけしの書いた(といってもたけしは楽譜が読めないので楽譜には書かれていない)いまひとつまとまりのない曲を、コードを多少いじったり、バンドで演奏できるように楽譜にしたり、といった作業を担当している。

この場合、作曲者はあくまでたけしであり、ユメジは編曲者。多くのの場合、バンド内でどんなに編曲しても特別にその人が多くお金をもらえる、なんてことは(特に駆け出しのバンドの場合)少なく、ユメジは自分のバンドを有名にするために、とせっせとたけしの曲を編曲して一般の人の心を打つように尽力する。たけしはもうユメジのしていることがちんぷんかんぷんなので、あとはユメジに任せて遊び惚けて、曲のことなんてしばらくの間すっかり忘れている。

こうして出来た「勝手にサウンドグッド」(仮名)という曲が突然ミリオンセラーの大ヒットとなり、WAは一躍有名になった。WAのメンバーは大喜び。これからのキャリアに胸を躍らせるメンバーたちであった・・・、とここまでは普通に聞こえるサクセスストーリー。しかしその数ヶ月後に、バンドメンバーたちは大変なことに気づくことになる。作曲者として登録されているたけしの収入が、ほかのメンバーの10倍以上にのぼることが判明したのだ。(これはあくまで仮定の話で、実際には何枚売れたか、アルバムに何曲入っているか、契約内容の詳細はどんなか、といったことでこの格差はあまり生じないケースもあります。)

曲作りに直接関わりのなかったほかのメンバーたちはともかく、この事実を知った編曲者のユメジは、怒り始める。「ユメジはコードチェンジだって分からないじゃないか。ユメジが鼻歌で歌ったのを楽譜にして、それぞれの楽器のパートを書いて、最終的なサウンドをリスナーに分かるようにしたのはこのオレだぜ!」

そう。そのとおり!でも、作曲というのはとても幅のある言葉で、ベートーベンやチャイコフスキーのように、オーケストラに30分もの曲を書くことも作曲なら、ピアノやギターは弾けないけれど「鼻歌のセンス」がある人が「ほにゃららー」と歌って出来上がったフレーズも作曲なのだ。ベートーベンやチャイコフスキーは、作曲だけではなく編曲も出来る力を兼ねそろえており、自分の頭の中に響いたメロディーを最高の形で演出するためにそれを自ら編曲している。それらすべてを含めて彼らの場合「作曲」としているのだが、そこまでの力がなくとも、たけしのように、身近にユメジみたいなハイセンスなアレンジャー(編曲家)がいれば、「鼻歌作曲家」でもやっていけるのだ。そして驚くべきことに、その曲が売れた場合、鼻歌作曲家のほうがハイセンスアレンジャーよりも、収入の面でも名誉的な面でも、雲泥の差で恵まれることになるのだ。

僕はここで何が言いたいのか。

それは、「編曲家は割に合わない仕事である」ということだ。

僕は作曲も編曲も、両方するからよーくわかる。ほとんどの場合、編曲は作曲よりもはるかに時間がかかる作業なのだ。特に僕の書いているようなヴォーカルアンサンブル、ホーンセクション付きのバンド、あるいはこれから書こうとしているオーケストラのためのアレンジとかになってくると、莫大な時間がかかる。にもかかわらず、そのアレンジした曲がどんなに売れてもほとんど収入にならないことが多い。ユメジが膨大な時間をかけて「勝手にサウンドグッド」のアレンジを完成させている間、たけしはほかの仕事をしてお金を稼ぐことだってできるのに、その間、ユメジの収入はゼロなのである。

では、これほどまでに「割に合わない仕事」を、僕は何故するのだろうか。

これは、「好きだから」ということ以外に答えは見つからない気がする。僕は編曲するといいう行為を、限りなく愛してしまっているのだ。

どんなに名曲であっても編曲が悪かったらその曲はクズ同然である。逆に、あまり冴えない曲でも、編曲次第でそれなりに聞かせることができた、なんてケースもある。味の良いケーキをボールの中でぐちゃぐちゃにして、原型に留めないものを食べたとして果たしておいしいか、というとそうではなく、ケーキの形にアレンジされてひとつひとつ味わうからこそおいしい、というのと似ている。おいしいケーキは、素敵な形にアレンジされて出て来るからちゃんとおいしくなるのだ。

実は、僕が音楽家を本格的に目指そうと思ったきっかけは、すごい作曲を聞いたからではなく、すごい編曲を聞いたからであった、僕もあんなふうに編曲ができるようになりたい!それがお金になるならないは別として(そんなことは当時は分かってなかったけれど)、ひとつの曲がこんなふうに生まれ変わって息を吹き返す姿を当時の僕は手品のように思い、そんな手品ができるようになりたい、と強く思った。僕は昔からものごとを多角的にみることが好きで、それはいまの自分の価値観の多様性・柔軟性に結びついていると思っているが、編曲に対して、その姿勢は顕著に出ている。皆が「この形がいい」と思っているところに「いや、これはこんなふうに見るとさらに面白いんですよ」と、新しい視点を投げかけることが好きなのだ。そして「ほんとだ、気づかなかったよ。こんな形もあったのか!いいねいいね。」と言ってもらえることに至福の喜びを感じるのだ。

実のところ最近は、それだけに飽き足らず、やはり完全にオリジナリティが出る作曲からしっかりはじめて、それをきちんとアレンジして最終形まで自分で持って行く、という作業が一番好きだ。イントロがかかり初めのフレーズを聞いた瞬間から、聞いた人が「ああ、やっぱりつねの曲だ」と思うような個性があり、「肌に合わない」という人もいるかもしれないけれど「肌に合いまくり」って人も出ちゃう。そんな作曲が、僕は以前にも増して大好きだ。

でも僕の原点は未だにしっかりと編曲にあり、そして作曲に精を注ぎながらも、同じぐらいのエネルギーで編曲を続けている。報われないことも多いけれど、自分が尊敬しているミュージシャン仲間がシンコペーションの演奏を聴いて「いやあ、いいね。ところで編曲は誰がしているんだい?」(興味深いことに、ミュージシャンはかなりの確率ではじめに編曲のことを聞いて来てくれる。やはり、編曲の力の強さを知っているからだろう。)って聞いてきてくれたり、アメリカで自分の編曲が出版されたり、自分の編曲に影響を受けて編曲家への道を志すようになる人が現れたりと、「ああ、編曲をしていてよかったなあ」と思えることもとっても多い。

そんな地味な作業だけれど音楽を音楽たらしめるために必要不可欠なこの行為を、僕は後進への指導という形でも続けており、今後も現役ミュージシャンでありながら、どんなに忙しくなってもそういう教育をしていきたいと思っている。もしこれを読んでいる人の中でミュージシャンを志している人たちがいたら、是非僕のしているワークショップにも遊びに来てほしいな、と思う。そしてミュージシャンを目指している訳ではないほかの大多数の人たちも、これから誰かの曲を聴くときに「これは誰が編曲しているんだろう」「原曲とはまた違っていいなあ。アレンジャーがいいんだろうなあ」なんて視点を持って聴いてくれたら、僕にとってこんな嬉しいことはない。

 

お知らせ

僕が編曲家を目指す大きなきっかけとなった師匠の松岡由美子氏と、合同でワークショップを行います。

2005年5月15日(日)・22日(日) 11:30open/12:00start/15:00end
松岡由美子(VOX ONE)・つね(Syncopation) 編曲ワークショップ
ご予約・お問い合わせ: ライブハウス多作 03-3406-8051

 

 

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