もうひとつの家族 (03.06.2005)


2002年10月のSyncopation
(C)somesay foto


2004年5月のSyncopation
(C)Sunnyside Music

 

ひと月に渡るソロツアーを終えてアメリカに帰ってきた翌日、メンバーの中でまだ唯一学生を兼業しているジェレミーの、学生時代最後の大きなリサイタルが学内であり、我らがシンコペーションも1曲だけ演奏した。そもそもバークリー音楽院というところは「職業訓練学校」という感じの大学なので、学生といってもプロ活動しているような人がごろごろいる。でもジェレミーは、そんな中でも同じセメスターレベル(学年みたいなもの)の学生では突出していて、いわゆる「花形」な存在。(そりゃそうですよね。学生でありながら何度もシンコペーションのツアーで海外に行ったり、メジャーレーベルからCD出したりするなんて人は、いくらバークリーでもそうそういないよなあ。)そんな彼の最後のリサイタルということで、プレイヤーたちも先生・生徒混合の学内随一のプレイヤーたちが集まった。シンコペーションが歌った曲も、久しぶりにアメリカでのレギュラー・トリオ(2003年に日本ツアーした3人。いまは別々の土地でプロ活動しているので、このトリオがこの3人の組み合わせになる機会も減って来ちゃいました。)が揃って、まさに「最強の布陣」。珍しくガチガチに緊張しているジェレミーだったけど、ライブ終了後はスタンディングオベーションで迎えられて、なかなか素敵なライブだった。

その週末、今度はバーモント州で行われた「バーモント・ア・カペラ・サミット」出演のため、1泊2日の演奏旅行に出かけた。僕らは「ア・カペラ・グループ」ではなく、後ろにバンドをつけて演奏する「ボーカル・グループ」なので、今回のようにア・カペラだけでライブをする機会はそんなに多くはない。でも今回は「それでも、ゲストアーティストとして是非」とのことだったので快くお引き受けし、週末を酷寒のバーモントで過ごした。サミットのハイライトともいえる「メインコンサート」に出演したのだが、当然ながら他のグループはすべてア・カペラ・グループであり、「ア・カペラはたまにしかやらない」ってなグループは僕らしかいなかった。そんな中だったので、果たしてどんなふうに評価されるのかしらん、と思って当日を迎えたのだが、結果的にはびっくりするぐらいの高い評価を得て、演奏後には総立ちのスタンディングオベーション。終了後のパーティーでは、ほかでもない、ほかの出演グループから絶賛されて散々質問攻めにあう始末。時差ぼけの頭を一生懸命働かせながらニコニコと答えるのは大変だったけれど、そんなふうに評価してもらえて心から嬉しかった。

このふたつのライブを通して改めて思ったのだが、僕はこのグループが本当に本当に、ほんっとうに好きだ。そしてこのグループの一員であることを、心から誇りに思っている。

僕はついつい自分のしていることに厳しくなってしまうから、シンコペーションのしていることにもとても厳しい目を持って活動している。音楽的にもまだまだ足りない部分はいっぱいあって、プロ活動しているうえで精神的にもまだまだ成長してほしいなあ、と思うところも多々ある。それがとてつもなくストレスに感じることもあるし、長い目で見てしっかり課題を持ってやっていかなくては、とよく思う。そう思っている事を前提に書くけれど、その一方で、こんな素晴らしいメンバーが集まることは、世界的に見ても滅多にあり得ないんじゃないか、と思っている(し、よくそう言われる。それだけ、ボーカルグループの人材集めというのは大変なことなんです!)。自分が一員で、かつバンドリーダーまでしているのにこんなことを書くのはバカみたいかもしれないが、僕はメンバーであると同時に、このグループの最大のファンのひとりでもあるのかもしれない。自分が「こんなことをこんなレベルでやりたい」ずっと思っていたこと。それがこのグループでしっかりと実現している。アメリカに来る前は、そんなグループを作る事を目標としてきたけれどまさか本当にここまでのグループが出来るとは思っていなかった。そして、日本にいた頃は招待されるどころか手を挙げてでも出たいと思っていたようなイベントに招待されて絶賛されたり。音楽的に自分がびびっちゃうようなプレイヤーたちと一緒にやらせてもらっている。自分はなんて幸せものだろう、とつくづく思う。

僕のソロのライブとシンコペーションのライブ、両方を見たことのある方ならご存知と思うが、ソロでやるときとグループでやるときは、僕の音楽の世界はかなり別物だ。ソロでは出来ないことをグループでやっており、グループではできないことをソロでやっている。具体的にいうと、グループだと僕の持ち味でもある「日本語の独特な世界」を展開することはできないし、ソロだとあれほどまでに幅のある世界感で迫力のステージを展開することはできない。グループだとソロのときほどフレキシブルな「揺らぎ」を表現できないが、ソロだとグループのときのような圧倒的なスウィング感を出すことはできない。

このふたつの世界は、僕にとってどちらもなくてはならない世界だと思っている。どちらかだけになってしまうと、きっと欲求不満が溜まってストレスになる。両方あるからこそ、満足度の高い最近の音楽生活を送れているのだ。

バンドリーダーがこんな調子だから、グループのメンバーもそれぞれ好き勝手にソロ活動している。それぞれが独自の世界を築き、ソロでも素晴らしいステージをしている。そして(実はこのあたりがバンドリーダーとしての腕の見せどころだったりするのだが)、そのソロで培った力やネットワークを、メンバー全員がグループに還元し、グループで培った力をそれぞれがソロでの活動に活かしている。日本のグループは兎角ソロ活動を制限しがちでよく「もったいないなあ」と思うのだが、才能溢れたほかの3人を見ていて、このスタイルでグループ運営をしていくのが一番正解だと思ったし、それは間違っていなかったとよく思う。まあ、そのおかげでスケジュールを組んだりきちんとコミュニケーションをとっていくのは、いろいろと苦労が付き物なんだけど。

各自がソロとグループの活動で別の世界を展開しているとはいえ、(誰もそんなことは言わないけれど)実は各自が、「ソロ vs グループ」という対決に向き合ってもいると思う。当たり前だけれど、これだけ個性的で独自の世界を持った4人が集まっているんだから、グループとしてステージに立ったときはときとして凄まじいエネルギーが発揮される(ようにプロデュースしているつもりです)。ステージ外でも、それぞれが得意分野と苦手分野があって補完しあっているのだが、ソロだとそれをカバーしてくれる人がいない。だから、全員が全員、ある意味ではグループでやるステージにソロでやるステージが「負けて」しまうだろう。でも、もちろん勝ち負けではないけれど、その「勝負」を少なくとも僕はとても楽しんでいる。こんなグループを相手にしているのだから、考えようによってはこれほどしんどい勝負はない。でも、この勝負の舞台が存在しているからこそ、ソロイストとしての自分の実力は少しずつ上がっているのだ。自分の頭の中にある物差しは、いつでも高いところにあってしまうものだ。高い世界を知ってしまうと、その世界より下の世界ではもはや満足できなくなってしまう。うまい寿司を食べたらまずい寿司が食えなくなり、新幹線に慣れると高速バスに乗れなくなったり、一度「いいオンナ」を知ってしまうとそれ以下の人とは付き合えなくなっちゃう(笑)。そんなことと同じようなものである。

シンコペーションを始めてから、この2月で4年目に入った。このメンバーの組み合わせになってからは、もう2年半ぐらいになる。いや、「まだ」たった2年半だ。だから問題も多くてストレスを抱えたりもするし、いいステージの日ばかりじゃないけれど、これからまだまだ成長していける、という点では楽しみがたくさんある。そんな、メンバー皆が「もうひとつの家族」だと思ってやまないこのグループを(喧嘩して近親憎悪を起こしそうなときも含めて!)心から愛おしく思う。

去年の今頃だっただろうか。クリスティーンがこんなことを言っていた。

「もし将来、ソロイストしての私かシンコペーションのどちらかでグラミー賞を取れる、と言われたら、私は間違いなくシンコペーションで取る方を選ぶわ。ひとりで喜んでいるより、こんなふうに心から一緒に喜べる仲間がいるってほうが楽しいじゃない!」

こんなふうに、自分がミュージシャンとして心から尊敬しているメンバーたちの口から出ると、本当にこのグループを作って、そして続けてきて良かった、と思う。海を渡って、チャレンジしに来て良かった、と思う。

今週はいよいよ、ボストンで一番由緒正しい、ブルーノート系列のジャズクラブ「レガッタバー」でのライブがある。ボストンに来た頃、ここに出るのが夢だった「レガッタバー」。2003年の秋にゲストとして出演して飛び上がるほど嬉しかったけれど、今度は初めて僕らシンコペーションだけのライブであり、喜びも比べ物にならないぐらい大きい。まだまだグラミー賞は遠い存在だけれど、目の前にあるひとつひとつのステップを大切に歩き、気づいたらこうして夢に見たクラブで単独ライブができるようになったように、いつしかその高みにも辿り着けるよう、今日からまた気持ちを入れ直してまたがんばりたい。

 

Syncopatioin at Regattabar
March 9
(WED) 7:30pm
Regattabar, Cambridge, MA
$12

 

日本ツアーは7月後半に予定されています。日本にお住まいの皆さん、首を長ーくしてお待ちくださいね!

「Of Blue」 はamazon.co.jpをはじめ、オンラインでも購入できます。
インディーズ時代のアルバム「A New Dance」は CDBaby.com のサイトで購入できます。

 

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