サンタ・クロースの贈り物 (10.27.2002)
Presents from Santa Claus
photo taken by Tsunenori 'Lee' Abe
毎年クリスマスが近づくと思い出すことがある。今から5年前のクリスマスのことだ。ミュージカルのツアーで全米各地を旅していたのだが、クリスマス休暇直前の公演がちょうどカナダ東部で終わることになった。そこで当時日本と遠距離恋愛していた彼女とボストンで落ち合うことにし、東海岸を一緒に旅して回ったのだ。感動の(!)再会を果たしたその日に早速、「直接渡したかったの」と言って、彼女はひと月遅れの誕生日プレゼントに「Guess」の時計をくれた。
長いこと会っていなかったし、彼女からのプレゼントが嬉しくないはずはない。でもサイズがやや大きくて、つけると緩くて落ちてしまう。仕方なく僕らは、初めて訪れる街ボストンで時計屋を探して回った。Guessの専門店は探し出せなかったものの、ほどなく僕らはPrudentialビルのショッピング・モールにある高そうな時計屋を見つけ、「Guessの専門店でないのは承知なのですが、この鎖をひとつはずして短くしていただきたいのですが可能でしょうか?」とおそるおそる聞いてみた。
「2時間ぐらいしたらまたとりに来てください。」
やさしそうなおじさんのひとことに、僕らふたりはほっと胸を撫で下ろした。(一番ホッとしたのは、サイズを間違えた彼女のほうかもしれない。)クリスマス一色のショッピングモールを歩きながら、久しぶりに再会した僕らはゆっくりとモール内を散歩して時間をつぶした。お金のなかった僕らは何の買い物もできなかったけれど、長い間会えなかった時間を経ていま、ふたりで歩いていることが何よりも幸せだった。
当時はこうして将来ボストンに住むことになるなんて、夢の話だと思っていた。いまちょっとした買い物に行く度に、目の前を通るたびに思い出すこのお店。高級っぽくて、普段は絶対に入らないようなお店。
2時間ちょっとしてここに戻ってきた僕らは、いったいいくらかかったのか、ちょっぴり不安だった。「誕生日プレゼントなんだし、私が払うわ。」「いや、わざわざ買ってくれたんだから、俺が払うよ。」おじさんが店の奥から時計を取り出して来る間、こんなやりとりがあったっけ。そして僕の腕にぴったりはまった時計を前に、けれど時計屋のおじさんは僕が生まれて初めてみるサンタ・クロースの顔をしていた。
「お金はいいよ。いいや、いらないんだよ。ほんと。メリー・クリスマス!」
そういってウィンクする彼に、僕らふたりはあっけにとられた。こんなことが世の中には起こるのか。クリスマスといえばクリスマス商戦(=カネ)という印象の強い日本から来た僕にとって、まったく信じられない出来事だった。
サンタ・クロースがいるなんて、思ってもみなかった。僕らはクリスチャンではないけれど、生まれて初めて、クリスマスの温かさを感じたのがこの冬だった。
5年が経ってこの冬、僕は試練のときを迎えている。
つい最近決まったことらしいのだが、昨年9月11日のテロ事件の影響によって移民法が変更になり、来年から外国人留学生は例外なくパートタイム(単位を正規より少なく取って就学するシステムのこと。外国人留学生でも、卒業が近くなると許されていた。)での就業が許されなくなってしまった。卒業を目の前にしていた僕にとって、フル・タイムで授業をとることは時間とお金の無駄であり、パートタイムでいられれば、現在もらっている奨学金で学業を続け来年には卒業できる予定だった。そんな僕にこのニュースは、まさに寝耳に水のことだった。
卒業はおろか、1年以上アメリカにいられるかもわからなかった僕にとって、ここまでやってこれたこと自体奇跡みたいなものだし、多くの人の支えなしにはやってこれなかっただろう。そして素晴らしいジャズ・ボーカル・グループを作ることができて、日本にも連れていくことができたしまた来年も連れていくことがほぼ決まっている。ボストンでも徐々に活動を広げて多くの人たちに認められるようになり、12月にはバークリーのオールスタービッグバンドとの共演に抜擢されてもいる。そんな努力が少しずつ実りつつある中、いまのままなら来年以降この国から、そして卒業を間近にしたこの大学から去らなくてはならなくなってしまった。
この国は確実に、外国人にとって住みにくい国になってきている。何十年か前まで存在した、移民たちにも開かれたアメリカンドリームが、今はどんどん一部の金持ちのためのものになりつつある。
この国に、サンタ・クロースはいるのだろうか。これから2ヶ月ぐらいの間、音楽の仕事と勉学をこなしたうえで、僕はこれまで実現しようとがむしゃらに頑張ってきた夢を終わらせないために、必死でもがいてみようと思う。夢を持つことが世界一許されるはずだったこの国に住む外国人のひとりとして、それが虚構でないことを証明するために。そしてなにより、僕の音楽を待っている人たちのために。