午後6時のケニア・マリニン (10.06.2001)


 Photo taken by Tsunenori 'Lee' ABE


紅茶にしようか、コーヒーにしようか、それとも日本茶にしようか・・・。紅茶にしても、どの紅茶にしようか、日本茶なら、緑茶にしようか、それともほうじ茶にしようか・・・。そのときの気分で、飲みたくなるものはまったく違う。

夕方になって買い物に出かけた。ビザ申請用の写真を撮りに行った帰りに、スーパーで夕ご飯のお買い物。そこ家に向かって歩くと、ちょうど西に向かって歩くことになる。なんとなく、いつもとは違う道を歩きたくて、ボストンでは一番おしゃれだと言われている、ニューベリーストリートを通りながら家へ向かう。

ボストンの秋は、思った以上に早くやってくる。夕方の風は、もうだいぶ冷たく、そしてなんだかせつない。もう強くはない西陽を眺めていたら、飛行機雲が茜色をしていた。こんなささいな風景の描写を、1日の終りに、あるいはご飯を食べながら好きな人と共有できたらいいのに・・・。そんな想いが、よけいに心をせつなくする。

こんなときに飲みたくなるのは、僕が好きな濃いコーヒー、フレンチ・ローストよりも、なんとなく心にやさしい紅茶だよな、なんて思って、この夏知人にもらった紅茶セットを開けてみる。僕が好きな紅茶のお店「レシピエ」でわざわざ買ってきてくれた、紅茶のサンプルセット。何十種類もの紅茶が入っていて、毎回気分に合わせてわくわくしながら選ぶ、魔法の箱。

午後6時の部屋。明かりを暗くして、矢野顕子さんのアルバム「Piano Nightly」を聴きながら選んでいたら、今日の気分は「ケニア・マリニン」だった。

矢野さんの作る音楽は、どこまでもやさしい。3月にボストンのライブハウスでお会いしたとき、「必ずデモ・テープを送ります」と言った言葉、まだ覚えてくださっているだろうか。彼女のつくる音、選ぶ歌、奏でる音のひとつひとつには、とても素直な何かがある。つくりこんだ音ばかりが目立つ最近の音楽界にあって、矢野さんのつくる音楽にきちんとマーケットがあることに、僕は大きな安堵感を覚える。

4日後に発売されるVoice Connection のCD、関係者には既に送ってあるのだけど、そのひとりである昔からの音楽仲間にこんなメールをもらった。



やったね!
イントロのアコギの気持ちいいこと。
始まったとたんに、「あ、すき」って思ってしまった。

(中略)

全体にとっても素直な仕上がりで心を癒してくれます。

やったね!



「素直な仕上がり」。これは、今回のCDで、とても意識したことのひとつだった。楽曲のもつ素晴らしさ、ひとりひとりのアーティストの持つ声の素晴らしさ。これを、そのまま伝えたかった。だって、こんな素敵なミュージシャンが集まったんだもの。曲だって、どの曲もなかなかいい曲が揃ったと思うし。

いまちょうど、実現するかはまだ分からないけれど、僕のオリジナル曲の中から、日本語の響きがとってもきれいな曲を、ピアノとボーカルのデュオでレコーディングしようか、なんて話も出ている。「晴れときどき流れ星」、「ぽぷり」、「月食を見た歩道橋」、「君のホットケーキ」、「猫がブタを食べたヨー」「一滴の雫」・・・。なんだか、確かに最近書いている歌は、なんだか素直で、日本語がやさしい歌が多いな、って自分でも思う。バイオリン奏者である姉に聴かせたら、「あんたの曲は絵が浮かんでくるね」って言われた。確かにそんなCDが作れたら素敵なのになぁ・・・。買ってくれる人たち、いっぱいいるかしらん。

午後6時のケニア・マリニンを飲みながら、なんだか今日もいい曲が書けそうな気がしている。
明日もみんなが幸せな1日を過ごせますように・・・。