Syncopation初来日ツアーについてのコラム (05.16.2002)
The Syncopations
Photo taken by Masami Ataka
4月3日にソロ・リサイタルをしたときのことだ。いつもお世話になっている、アーティストのF氏(彼女の作品に僕が曲をつけるプロジェクトが進行中です)から、「Lee(アメリカではこう呼ばれています)はやっぱり26歳の男性なんやね。20歳ぐらいの子にはできへんことをしてるわね。」と言われた。
そのリサイタルは、自分にとって初のソロリサイタルであり、この夏初来日するジャズ・ボーカル・グループ「Syncopation」の初ステージでもあった。「All
About The Voices」と冠して、声の持つ可能性というものを、お客さんに見せたかった。
現時点でのTsunenori 'Lee' Abeが、ひとりのアーティストとして何ができるか、自分自身に問い掛けたかったし、だからこそ敢えて、選曲も「これは無理ちゃうかなぁ」って思うようなものも取り入れてみた。ひと昔前なら絶対に出来なかったことも、この1年で出来るようになってきているし、チャレンジをやめたらミュージシャンでなくただの芸能人になってしまう。
F氏の言葉以来、僕はいくつかの自分の写真を見てみた。まだ20歳の頃のパスポートの写真、日本でBaby
Booの仕事をしていた頃の写真、アメリカに来たばかりの頃の写真、そして今・・・。いやぁ、皺が増えてる、とかじゃなくて、確かに顔つきが変わってきてるなぁ、と思う。いやいや、人相悪くなってるんちゃいますよ。なんだか、自分でいうのも変だけど、昔よりいい顔してるなぁ、と思う。自分に正直に生きてる顔。いい人達に出会い、ゆっくりと、でも着実に前に進んでいる顔。
ここバークリーには、そしてアメリカ合衆国には、20歳そこそこで世界に通用する音楽をしているミュージシャンがごろごろいる。そんな中で僕は、比較的遅咲きのほうであろう。でもやっと、「これなら世界に通用するかも」と思えるグループを始めることができた。アメリカに渡って、1年後のことである。
Syncopation(しんこぺーしょん)。もともとはバークリーの授業「マンハッタン・トランスファー・アンサンブル」としてスタートしたグループ。ここバークリーでは、ハイレベルなアンサンブルは、その授業をとるためのオーディションがあるのだが、Syncopationの面々はそのオーディションをくぐりぬけてきた連中だった。マンハッタン・トランスファーのメンバーでもある、シェリル・ベンティーンが選び、指導してくれたこのアンサンブル。この素晴らしい連中を、僕は日本に連れていきたいと思うようになった。そして間もなく授業としてだけでなく、恒常的に活動するグループとしてのスタートを切ったのである。、
クリスティ・ブルーム。彼女は、あのリチャード・エヴァンスをして「ジャズシンガーになるために生まれてきたような人」と言わしめた、素晴らしいジャズ・ボーカリストである。東海岸の各地で、ソロ・シンガーとして活躍しているが、さらなる成長を求め、奨学金を得てバークリー音楽院に入学した。
ステファニー・ジョーンズ。黒人である彼女は、黒人独特の、温かい声質を持っている。その温和な人柄に調和するような声は、グループの重要な接着剤でもある。ジャズ・コーラスを長年経験してきて、高校時代にはヨーロッパ公演もしている。
カイル・イワルツ。彼もまた、コーラスの経験が長く、全米各地を公演してきた実績を持つ。まだ若いのに信じられないほど意識が高く、そしてまた背も高い(2メートルは余裕であり、ステージ上ではもっとも隣で歌いたくないタイプだったりして。俺、ちっちゃくて子供みたいなんだもーん。ぶう。)
そして、僕。まあ、ここに書くまでもありませんね。経歴の派手さではみんなに負けませんよ。はい。
こんな素敵な面々。ひとりひとりがミュージシャンとして、人間として素晴らしい人たちである。そして、人種的にも文化的にも異なるバックグラウンド。ある意味アメリカのあり方を象徴したような、人種も文化も違う個性がひとつのものを共に作りあげていくことの持つ力。よくア・カペラ・グループにありがちなのだが、グループでは良くても個人としては通用しない、という例があまりに多い。でもこのグループは、個々がひとりのミュージシャンとして、十二分に通用する個性と実力がある。そういう人材は往々にしてグループワークが苦手なのだが、この4人はそのふたつを兼ねそろえているのだ。
ちなみに、今回のツアーに同行するピアノトリオも、素晴らしい実力の持ち主ばかりである。Syncopationのコーラスワークがこのピアノトリオの洗練された音と重なったとき、日本のコーラスシーンでは体験できないような音が生まれるはずだ。
日本での地位を捨て、本当の音を求めて葛藤を繰り返し、そして26歳になった今だから出会えたこの素晴らしいグループを、この夏日本のみなさんにお届けします。 初の来日公演まであと3ヶ月。日本のコーラスシーンにそろそろ飽きてきたみなさん、飽きてはいないけれど、何か別なものが見たいみなさん、僕の留守を待っていてくださったみなさん、ハーモニーがとにかく好きなみなさん、あと少しでお会いできるのを心から楽しみにしていますね。